【イギリス、ドイツの社会主義運動−1】

 副題を変えます。

 

 イギリスの労働者は団結しました。結集軸は労働党ですが、その支持母体となったフェビアン協会について簡単に説明します。元々は知識人(インテリ)が、より良い生活を求める団体として発足した団体で、国内の諸問題を扱ううちに、労働問題にも関心を深めていきました。その結果、労働党を生み出すに至ります。但し、フェビアン協会や労働党は、イギリスの歴史から生まれたことに注意する必要があるでしょう。名誉革命以降、大規模な流血の事態を避ける歴史を有する——勿論、カトリックなどの少数派に対する苛烈な弾圧があったことは言うまでもないですが、これは民主主義の持つ恐るべき本質について触れるときに記します——イギリスは、王が権利を制限されるような事態を、王自らが認めていく歴史を有します。結果、今や「君臨すれども統治せず」の伝統が作られ、余程の事態がない限りは議会に対する拒否権を発動しません。逆に言えば、力を見せつければ、相手はその力を尊重する歴史があるとも言えます。このような国で、何もかも爆破し、根本から作り変えるという手間を要する革命が、民衆によって欲せられるでしょうか? フェビアン協会のインテリと、それに支持された労働党、そして労働党を支持する労働者は、革命ではなく、王から権力を奪った議会に承認を与え、自らの権利を擁護するために、王国で地歩を固め、要求を通していきます。

 

 イギリスの労働者は、革命という爆破作業を選ばずに、改良の道を選びました。小生にとって馴染みのある言葉で言えば、イギリスの労働者は体制内化することを選びました。体制内化とは、自分たちが国家の中で、一定の力と地位を体制に認めさせて、その枠内で権力を分与されて、行使することです。そのためには、既得権益を有する側——支配者層と言っていいかも知れません——が、新たな勢力の力を認める知性と、受け入れる理性を獲得していることが必要だと小生は思います。あるいは、新興勢力を排除した時に、どのような恐るべき結果になるかについて洞察する知性も。

 

 勿論、そういう道を選ばなかった労働者は世界中にいます。マルクスの祖国、ドイツを考えましょう。マルクス存命中、ドイツの労働者はマルクスの喧嘩友達とでも言うべきラッサールの強い影響を受けていました。彼は労働者自らが起業し、生産組合を設立し、そのために国家権力を利用すべきで、この動きに国家権力を服するためには、労働者に普通選挙権を与えるべきだと考えました。ラッサールの社会主義は、国家資本主義とも言われますが、先に書いた体制内化を要求するものでもありました。そして実際に、ラッサールは鉄血宰相・ビスマルクとも親交があり、ビスマルクの政治のうちのいくつかは、ラッサールの提案によるものと言われています。それは、労働者の団結権——ストライキや労働組合を認めること——、社会保障制度の実施。そして、普通選挙権(北ドイツ連邦)。イギリスの労働者が同時代には獲得していなかったものを、すでにドイツの労働者は獲得していたとも言えます。

 

 しかし。マルクスの盟友であるエンゲルスがラッサールの不幸な死の後、ドイツの労働者階級に多大な影響を与え始めた時、ドイツの労働者階級は体制内に留まれないであろうと訴えはじめました。

(続)