ということで、当blogが戦車ネタでにぎわったからかどうか定かではないが、軍事評論家古是三春氏からTPPに関する投稿があったので掲載する。blogの規定文字数を超えるので、上下に分けますた。

【ごあいさつ】
 
 ブログ訪問の皆様へ
 
 いつも、拙著について話題に取り上げていただき、ありがとうございます。
 
 さて、私はどちらかというと軍事技術史や戦史、軍事行政史を主に専門としていますが、この場でも話題として取り上げられたTPPのような政治問題にも重大な関心があります。
 
 ご存知でしょうが、拙著『ノモンハンの真実 日ソ戦車戦の実相』(2009年、産経新聞出版刊)で明らかにしましたように、私自身は日本共産党の専従職員の経歴があります。そうした立場で見て、現状の”古巣”の連中は国の運命を左右しかねないTPP問題では浅薄な論議しかものせず、せいぜいが「赤旗」拡大の利用材料にしか扱っていないという体たらくです。まあ、彼らの流儀なんでしょうから仕方ありませんが、「国民の暮らしと平和、安全を守る」「公正な国際政治を実現させる」という理想をもって共産党員の生活を送った私には、何とも情けなく思えてなりません。
 
 もっとも、かつて共産党員だった時代とはほぼ正反対のような政治観、国防観を持つようになっているのですが、論で生活を立てるものとして一言、このタイミグであらゆる場所での発言をこころみることにしました。
 
 以下、私のごく限られた視点からのTPP論をお届けしますが、同趣旨で雑誌等に執筆もしています。ただ、野田総理によるTPP参加表明が10〜11日にあると報道されている折、このタイミングでネットの力を借りて発表するのが必要と判断し、管理人さまに協力をお願いしました。
 
 皆様もさまざまなご意見をお持ちでしょうが、どうかひとつの見方としてご笑覧いただけますよう、またご批判も賜りますようにお願い申し上げます。
 
【本論】
 
TPPは日米同盟の基盤を崩壊させる
 
軍事評論家 古是三春(フルゼ ミツハル)
 
 現在、日米安全保障体制は両国間の防衛協力にとどまらず、アジア太平洋地域全体の平和と安定に不可欠な基礎的関係と位置づけられている。この同盟関係の基礎は、日米両国が共有する民主主義、法の支配、人権の尊重、資本主義経済という基本的価値観の促進にあるとされている。
 
 しかしながら、いま米国に要望され日本が交渉参加の是非を国際的に表明しようとしているTPP(環太平洋包括的経済連携)は、以上のような日米同盟の基礎を掘り崩しかねない問題をはらんでいる。現在、米国を含め9カ国が交渉参加しているTPPは、「例外なき関税撤廃」「あらゆる障壁の除去と参入への公平確保」等を原則とした自由貿易圏の構築をめざしている。二国間自由貿易協定(EPA・FTA)を超えた多国間のマルチな協定で、急速な経済伸長の条件を切り拓くと推進側から宣伝されているが、果たしてそうなのか。
 
詳述はしないが、基本的にTPPが協定案の基礎として検討しているのは、最近米国が二国間で締結したEPA・FTAの取り決めである。例えば、米韓FTAでは、韓国の強い要望でコメの自由化のみ除外されたが、他の農業水産分野はもとより、公共事業参入から国民の命と健康に直接関わる医療制度、医薬品・機器承認制度まで米国側業界の関与が定められ、医療のような国家の基本政策まで韓国は独自に決定する権限すら失ってしまった。韓国では病院分野で米国並みに営利企業参入が特区内ではあるが承認され、金のある者が優遇される営利病院が生まれている。
 
結論を急ぐなら、TPPは産業のみならず金融・保険から社会保障分野まで、参加国すべてに制度面で米国並みシステムへの転換を求めるものとなる。結果として、「2014年までに輸出額を倍化する」と公約した米国オバマ政権の目標達成を助けるため、強大な国力を背景とした米国企業がTPP参加各国へのあらゆる事業分野への参入と「障壁撤廃」による製品輸出増を図ることになるというものだ。
 
TPPは多国間包括的経済連携協定をめざすというが、実質的には米国にとって日米自由貿易協定+アルファというべきものだ。なぜなら、日本がTPPに参加した場合、日米二国だけでTPP参加諸国合計GDPの9割を占めるからだ。同時に参入分野で見るなら日本の農水に限らず、年間40兆円近く医療費が使われる医療・医薬品分野や農協共済、全労済等の巨大な共済を包含する金融・保険分野が米国企業にとっては最大の魅力あるターゲットとなっていることも重要だからだ。
 
このような内容が見通されるTPPについて、日本国内で参加推進を唱える者たちは「停滞した日本経済の行きづまり打開に”第三の開国“として重要」というにとどまらず、最近は「日本の安全保障強化に不可欠」との議論まで持ち出している。ある国会議員は、筆者の面前で次のように述べた。