1952年7月21日、破壊活動防止法施行。それに伴い、法務省の外局として、公安調査庁もこの日スタートした。破防法については、この暦の7月4日の項でも触れたので、繰り返さない。


【参考文献】
過激派壊滅作戦

警察官の現場―ノンキャリ警察官という生き方
 公安調査庁は、中核派や革マル、近年ではオウム真理教のようにテロ行為を実際に行った集団のみが対象のはずだ。しかし左翼や右翼はもちろんのこと、労働組合、解放同盟、反戦・反核・反原発運動、部落解放同盟、アムネスティ・インターナショナル、自由法曹団、さらに生協や産直運動、環境保護団体、言論団体(日本ペンクラブ、日本ジャーナリスト会議等)なども、監視下に置かれている。

 「治安上の脅威となる団体は、『市民運動』等を隠れ蓑として勢力伸長を図るのが常套手段である以上、これらの団体に対する合法的情報収集・分析は業務の一環として当然である」というのが、公安調査庁を認めるサイドからの反論である。

 しかし、たとえばパトカーが事故を起こしたとしよう。事故を起こした警察官の上司から、事故の被害者に関する問い合わせが、公安係にある。その人物が公安対象者でないかどうか、チェックするためである。警察の一方的な過失によって市民にケガや損害を与えたにもかかわらずである。

 これを公安用語でFチェック(ファイルチェック)という。「民間」からも問い合わせがある。主たる目的は、企業が人材を採用する場合の身元調査のためでだ。業務上知りえた機密をもらす行為は、公務員法違反にあたるが、これも公然の秘密である。70年安保の頃には、Fチェックに引っかかった人は、それが事実であるかどうかにかかわらず、その企業には就職できなかっただろう。

 ノンキャリアの刑事出身の警察評論家(いろいろな職業があるものだ)犀川博正は、70年安保の頃の状況をこう振り返る。

 「新左翼の動きとしては、べ平連(ベトナムに平和を市民連合)系グループが、毎月一回、市内をデモ行進していました。当初、公安係では、このデモ行進に参加しているのは誰なのかということに関心はありませんでした。日本共産党傘下の民主青年同盟、その実態解明さえも関心がありませんでした。ひたすら日本共産党員の解明だけに努力していたのです」(『警察官の現場』)

 べ平連を新左翼といえるかどうかは別として、この犀川のトッツァンの言葉は、テロがあろうが爆弾事件が起ころうが、当時の公安の第一のターゲットが共産党だったことの証左である。

 しかし新左翼サイドの爆弾闘争や内ゲバ事件が増えるにつれて、そうもいっていられなくなる。犀川のトッツァンは、「新左翼活動家」の「面」を割るための撮影テクニックの開発に向けて、涙ぐましいまでの努力を重ねた。そして、『情報写真の技術』という小冊子を自費出版して、警察の同僚である友人たちに配布した。すべては技術向上のためである。技術には自信があった。警視庁公安部は俺を必要とするだろうという期待もあったらしい。

 しかし、裏目に出た。この小冊子は、ただちに公安部によって回収の憂き目に遭ってしまう。

 「写真のテキストとして公安部で有効に活用したい」
 「印刷した部数はすべて買い上げる」
 「オフセット印刷の版もすべて回収させていただきたい」

 要するに、「保秘に差し支える」と判断されたのだ。もっとも、公安部から回収の指示が出た時点では、犀川のトッツァンの友人たちは、コピーをとって有効にこの小冊子を活用していたらしい。一度複製されてしまえば、もう規制する手立てはない。下手に「回収処分」にしてしまったことで、鼻のよいジャーナリストにも勘づく者もあったかもしれない。

 「公安部は『情報写真の技術』を回収するなどという無駄な発想は持たずに、あれを上回る技術を開発すればよかったのです。……警察官は一般的に公安警察というものを、なんだかわからないような極秘の仕事をしているところだと思っているようです。しかし私は公安部の間抜けな側面を、体験として知っていました。
 事実、その後、私は公安警察のあざやかな仕事というニュースにはほとんど接していません。オウム教団の起こした一連の事件は、逆に公安警察の情報分析力のお粗末さを露呈しただけだと思っています」(『警察官の現場』)

 1971年7月21日の公安記者の日記からの引用。

 「公安部長放談会、日共関係は宮本委員長新居への移転の件。各社とも日共にはうといから、日共の話題となると公安部長の一人舞台。今年の成田・三里塚では地雷が使われるという情報あり、ブントのRGなど要注意。京浜安保の70年冬の上赤塚交番襲撃事件公判に赤軍派の連中が傍聴に来ている。両派の接近も要注意。若松孝二がベイルートにいる赤軍派の重信房子と連絡をつけ、赤軍派とアラブゲリラのドキュメンタリー『赤軍−PFLP 世界戦争宣言』をつくった。9月中旬公開らしい」(滝川洋『過激派壊滅作戦』)

【参考文献】
『警察官の現場 ノンキャリ警察官という生き方』 犀川博正(角川書店)
『過激派壊滅作戦 公安記者日記』 滝川洋(三一新書)