きょうは「日記の日」だそうである。

 1942年6月12日、アムステルダムの隠れ家で、アンネ・フランクが日記を書き始めたことにちなんでいる。この日は彼女の13歳の誕生日だった。アンネはこの日記を心の友として「キティ」と名づけた。

 「あなたになら、これまでだれにも打ち明けられなかったことを、なにもかもお話できそうです。どうかわたしのために、大きな心の支えと慰めになってくださいね。1942年6月12日 アンネ・フランク」

【きょうのブックガイド】

アンネの日記

夜と霧―ドイツ強制収容所の体験記録

夜と霧 新版
 アンネ・フランクは1929年6月12日、フランク家の次女としてフランクフルトに生まれた。ニューヨーク株式市場で株価が急落し、世界大恐慌が始まった年である。3歳のときに、フランク一家はナチスの迫害から逃れてオランダのアムステルダム市に移住する。しかし1940年5月にドイツ軍がオランダに侵攻してから、ユダヤ人に対する迫害が続き、1942年7月にプリンセン運河通り263番地の隠れ家に移り住み潜伏する。この隠れ家生活は2年1ヶ月続いた。

アンネの日記は1944年8月1日に終わっている。8月4日に密告により秘密警察のアムステルダム本部へ連行された。ポーランドのアウシュヴィッツ収容所へ送られ、ベルゲン=ベルゼン収容所で腸チフスにより亡くなっている。1945年4月15日、イギリス軍によりベルゲン=ベルゼン強制収容所が解放される一ヶ月前だった。

 アンネの日記帳は隠れ家の階下の事務所で働いていたミープ・ヒースとベップ・フォスキュイルが回収して、ミープ・ヒースが大切に保管していた。

 戦後、この日記を受け取ったアンネの父は、アンネの希望をかなえるため、出版することに決める。1947年夏、オランダ語版『隠れ家』(Het Achterhuis Dagboekbrieven 12 Juni 1942 ― 1 Augustus 1944。邦訳『アンネの日記』)が刊行。 日本での初訳は、1952年初訳の皆藤幸蔵による『光ほのかに』である。

 1991年にはアンネ・フランク財団の依頼でミリヤム・プレスラーが編集した『アンネの日記』(完全版)が出版されている(深町眞理子訳、文藝春秋刊)。アンネの日記には、公開を予定した清書されたバージョンとオリジナル版の二種類あった。思春期の少女の夢や悩みが赤裸々に描かれ、この完全版をもって定本とされているようだ。

 ナチスによるホロコーストの記録として、『アンネの日記』とならぶベストセラーが、V.E.フランクルによる『夜と霧』である。こちらにも2002年に池田香代子による新訳が出ている。

 この新訳が出たのは、霜山徳爾訳の準拠した旧版(1947年版)と池田訳の準拠した新版(1977年)では、かなりの異同があったためである。たとえば旧版には多用された「モラル」ということばが、新版からほとんど二箇所を除いてすべて削られている。「ここで扱われるべきは精神医学であり、さらにはより根源的な人間性なのだ、とする筆者の考え方がそうさせたのではないか」と池田氏は推定している。旧版も古本屋等で入手しやすい。新版と旧版の異同のなかに、アウシュヴィッツの体験を読み解くヒントもあるだろう。

 さて、アンネがキティと名づけていたように、『二十歳の原点』の高野悦子も、日記に名前を付けていたことを思い出した。高野悦子は1963年、中学2年の1月1日から日記を付け始めて、この日記を心の友「小百合さん」……しかし吉永小百合を思い出すという理由から途中から「ジュディー」に改名……として語りかけている。『二十歳の原点』に、6月12日の記述があったので、引用してみたい。

 「六月十二日 雨
 久しぶりの雨。
 集会とデモにやじ馬的に参加し、バリケードに行っても討論に加わらず。近頃バリケード(京大)にも行く回数が少なくなり(二日に一回)部屋で本を読んでいる時間が多い。

 立命闘争の総括、安保闘争(六〇年の概括)……早急な課題
 アルバイトの位置づけも急がねば。

 しかしあらためて本の背表紙をズラッとながめてみると、よみたい本がたくさんあるなあ。しかしもう二時、総括どうしよう?」(『二十歳の原点』)

 『二十歳の原点』では、原始林の中にある湖の深い湖底に笛を沈めようという……というフレーズが印象に残っていた。だから高野さんは入水自殺したとばかり思いこんでいた。この日記を書いた12日後の1969年6月24日未明、鉄道自殺。

【参考文献】
『アンネの日記』 アンネ・フランク/深町眞理子訳(文春文庫)
『夜と霧』V.E.フランクル/池田香代子訳(みすず書房)
『二十歳の原点』 高野悦子(新潮文庫)

【参考サイト】
アンネ・フランク(ノブ氏による)http://www.geocities.jp/nobu0526/
アウシュヴィッツ平和博物館(白河市)
http://www.am-j.or.jp/index2.htm
アンネのバラの教会(西宮市)
http://www005.upp.so-net.ne.jp/anne-fmh/
連合赤軍と「二十歳の原点」
http://www12.ocn.ne.jp/~chi0010/